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著作分類 IIRワーキングペーパー
著者 原泰史 : 大杉義征 : 長岡貞男
論文タイトル 革新的な医薬の探索開発過程の事例研究 : アクテムラ(JST-N-CASE01)
機関名 一橋大学イノベーション研究センター
ナンバー WP#14-07
公開日 2014/10/30
要旨 アクテムラの研究開発プロセスの特徴として, 以下の点が挙げられる. (a) サイエンスへの志向性が高い企業内科学者 (corporate scientist) が標的分子, 疾患メカニズムがまだ未解明の段階から研究に着手し, 積極的に大学, 研究機関とのコラボレーションが行われた結果, 新しい標的と新たな作用機序を持つ革新的な抗体医薬の開発に成功したこと (b) 1984年の基礎研究開始から24年後の2008年に関節リウマチ薬としてアクテムラは承認されたように, 研究開発が長期にわたったこと (c) その間に研究開発がとん挫する危機に少なくとも二回直面していること. まず, B細胞阻害剤の探索で基礎研究は開始したが, 標的分子を同定することはできなかった. この袋小路の状況は, 大阪大学岸本グループによるIL6の発見とその自己免疫疾患への応用可能性の発見によって解決された.次に, IL6を標的分子とする創薬研究において, 可溶性受容体あるいは低分子から, 候補となりうるリード化合物を見出すことができなかった.この危機は, 高い生産コストを負担できる多発性骨髄腫への用途を広島大学河野氏が発見したこと, また抗体のヒト化技術が発明され応用される見通しがたったことで解決された. いずれの場合もサイエンスの進展を取り込むことで, 危機を克服した. (d) 大阪大学との産学連携では, 学から産への知識提供, 産による商業化という一方向的な関係ではなく, サイエンスとイノベーションの進捗に互いに寄与する相互補完的な関係が構築されたこと.マウス版アクテムラおよびアクテムラの開発によって IL-6の科学的な理解が格段に進歩した.同時に, TNFα阻害剤が席巻している中で海外のIL-6 への関心度が低さに対して, アクテムラの作用機序に深い理解があった大阪大学は日本での臨床試験にも積極的に関与し, 世界で最初にアクテムラが承認されることになった. (e) 欧米で研究開発された関節リウマチを対象疾患としたTNFα阻害剤は, いずれもスタートアップ企業が探索を担っていること. レミケードはセントコア社, ヒュミラはBASF のスピンオフ企業BBC, エンブレルは Immunex 社が探索の中心である.しかし, 日本では製薬企業である中外製薬が開発に乗り出し上市までに至った. エポジンやノイトロジンの開発に代表される, バイオに関連する中外の科学者の経験と経営陣のバイオ医薬品への理解が, アクテムラの研究開発へと導いた. (f) 世界的な開発競争という観点からみると, 日本では免疫分野では大阪大学など日本のサイエンスは世界をリードする水準にあり, アクテムラのシーズを提供した. 他方で, 関節リウマチ分野で最も早く上市されたレミケードと比較すると, 開発候補品となる抗体はほぼ同じ時期に開発されたが(おおよそ1990年), アクテムラの関節リウマチ治療薬としての上市は9年遅れた.その要因として,日本の薬価制度上の制約により自己免疫疾患では当初利益を十分得られる価格を設定できず, 多発性骨髄腫治療薬としての開発を行い、自己免疫疾患治療薬としての開発を一時的に中断したことにあると考えられる. その後自己免疫疾患での開発に回帰し日本での臨床開発は順調に進んだが、欧米では時間を要した。アクテムラの臨床試験途上で中外製薬はロシュの傘下となり, これによりアクテムラの世界的展開が実現した.
備考
参考URL
ラベル 経営学, サイエンス, イノベーションの科学的源泉, 知識
登録日 2014/10/30

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