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著作分類 IIRワーキングペーパー
著者 本庄裕司:長岡貞男:中村健太:清水由美
論文タイトル バイオベンチャーの成長への課題 −提携と代表者の交代を中心にー
機関名 一橋大学イノベーション研究センター
ナンバー WP#12-01
公開日 2012/01/20
要旨 本稿では,「2010年バイオベンチャー統計調査」(2010年度調査)にもとづいて,研究開発費の資金調達,提携,代表者の経歴を中心に,日本のバイオベンチャーの現状と成長への課題を調査・分析する.2010年度調査で新たに追加した調査項目を通じて得られたおもな知見は以下のとおりである.<br>(1) 提携(ライセンス・アウト,共同研究開発,受託研究)の有無について回答のあった企業のうち,約5割が公的機関・大学との共同研究開発,約4割が国内企業との共同研究開発を実施しており,約3割が国内企業からの受託研究を行っている.また,国内企業へのライセンス・アウトについて実績のある企業は1割強であったが,現在,提携を実施していない企業の多くが提携を希望している.こうした提携は,企業が保有しているコア技術の発展・活用を目的としている場合が多数を占めており(共同研究開発の9割,受託研究の7割,ライセンス・アウトの8割),バイオベンチャーにおける提携の多くは,コア技術の発展・活用に傾注している.提携機会は企業成長に重要な役割をはたすと考えられる.<br>(2) 提携パートナーの獲得にあたって有効だった方法として,回答のあった企業のうち,約7割の企業がライセンス・アウト,共同研究開発,受託研究のいずれの提携についても「自社による提携先の個別開拓」をあげており,その比率はもっとも高い.また,「自社技術に関する学会報告」は,ライセンス・アウトについて約3分の1,共同研究開発について約4割,受託研究について約3割の企業が有効と回答しており,サイエンスとのつながりの強いバイオテクノロジーの特徴を色濃く反映した結果となっている.さらに,「バイオジャパン等における公開展示」は,共同研究開発と受託研究について2割近い企業が有効と回答している.特許の公開公報も約1割の有効と回答している.<br>(3) 2000-2004年設立の企業のうち44%で設立以降に代表者の交代がみられており,全体として約4割の企業で代表者が交代している.コア技術の変更頻度(約3割)と比較して,代表者の交代の頻度のほうが大きい.創業者(設立時の代表者)とその後に企業を継承した代表者(継承代表者)との個人属性を比較すると,継承代表者のほうが大学出身者よりも大企業出身者の占める比率が大きく,博士号取得者の比率は小さい.<br>(4) 代表者の交代は,設立時の代表者が高齢な場合に発生しやすく,逆に,高学歴(博士)の場合に発生しにくい.また,代表者の交代は,設立時にベンチャーキャピタルや他社の出資が大きい場合に発生しやすい.企業年齢をコントロールしても,代表者の交代と設立時の企業規模との間に有意な正の相関がみられる.<br>提携は,共同研究開発のようにバイオベンチャーがコア技術をさらに発展させるうえで,また,ライセンス・アウトのようにコア技術を商業化していくうえで重要な役割をはたしている.提携パートナーの獲得にあたって,バイオベンチャーが自社による提携先の個別開拓がもっとも重要であるが,同時に,学会やバイオジャパンなどでの公開展示や発明公報なども貴重な機会を提供している.新しい技術との融合や新しい用途の発見が,先端技術の開発にはたいへん重要であり,そのために,様々な提携機会が必要となるだろう.<br>日本のバイオベンチャーの約半数は,大学や公的研究機関からの技術をコア技術として誕生しているが,基礎的な技術を基盤として商業化への具体的なシーズを探索する段階と,技術的な発展の可能性が確定したシーズを商業化する段階で,必要とする代表者の経験やスキルは異なる可能性がある.こうした点を踏まえれば,それぞれの経営課題にふさわしい代表者に交代することはバイオベンチャーの成長にとって必要であり,そのために,専門的な経営者を育成していくことも重要といえる.<br>日本のバイオ関連分野において,ここ数年,新しい企業の誕生に大幅な減少傾向がみられている.この点について,リーマンショック以来,金融市場の収縮が大きく影響していると考えられ,また,本稿で示したように,既存プロジェクトの研究開発費について全体の6割以上の企業が何らからの資金制約に直面しており,バイオ関連分野への資金の還流の停滞が新しい企業の誕生や成長を阻害している可能性は高い.バイオ関連分野の技術的な発展の可能性を追求し,それを経済的な成果に結びつけるために,新しい企業の参入が持続的に発生するシステムの構築が不可欠である.そのために,潜在的な創業者,研究者,投資家,既存の大手企業からみて,バイオ関連分野の創業が魅力ある事業機会となる環境整備が必要といえる.今後,資本市場の活性化,大学からのシーズの初期開発への支援,提携の推進など,サイエンスベースのイノベーションシステムを有効に機能させるための企業と政府の一層の努力が重要であろう.
備考
参考URL
ラベル 経営学, 産学官連携
登録日 2012/07/06

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