要旨
|
日本企業においては近年、競争状況の大幅な変化への効果的な対応、分社化、持株会社など企業組織選択の自由度の拡大などを受けて、効率的なグループ経営が重要になっている。連結ベースでの企業活動の国際的な比較分析ができるように、我々は、日本と米国で、企業の主たる事業が製造業、情報通信業、運輸業のいずれかの上場企業について、連結ベースで、かつ統一された産業分類によって多角化の程度を比較できるデータベースを構築した。本論文は、本データベースによる比較分析からの基本的な知見を報告する。これらの上場企業の中で、日本では多角化企業が研究開発費でも売上げでも9割以上を占めているが、米国でも多角化企業は研究開発費の6割、売上げの7割を占めており、非常に重要な存在である。研究開発を行っている企業の割合は日本企業の方が高いが、米国では研究開発集約度が非常に高い企業の割合が高く、また研究開発集約度が高い産業で日本企業よりもその水準が高い。また、売上げ規模と上場からの経過年をコントロールしても、日本企業の方が事業部門数でカウントした多角化は進んでおり、また日本企業では売上げ規模を拡大していく上で、多角化が米国企業よりも大幅により重要である。日本企業の方がハーシュマン・ハーフィンダール指数で評価した事業の集中度も低いが、これは主に日本企業の事業部門数が多いためであり、事業部門数と企業年齢をコントロールすれば、その差は有意ではない。研究開発の水準が売上げ規模と共に上昇する程度は日本で大きく、しかも前年の売上げに依存している程度が大きい。米国企業の専業企業を含むサンプルのみで、事業部門の増加及び事業部門数を所与として事業の集中度が高くなることが共に研究開発の水準を高める傾向にある。日米において研究開発投資のファイナンスの在り方や企業で多角化の目的と効果がかなり異なることが示唆される。
|