要旨
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要約
本稿では,日本のバイオベンチャーにおける科学的源泉の役割に注目し,「2011年バイオベンチャー統計調査」(2011年度調査)にもとづいて,コア技術,研究開発費の資金調達,提携・ライセンス,代表者の状況などを調査・分析する.バイオベンチャーの科学的源泉について2011年度調査で新たに追加した調査項目を通じて得られたおもな知見は以下のとおりである.
(1) 日本のバイオベンチャーのコア技術の出所(設立時)は,大学あるいは公的研究機関が5割近く,創業者が約4割,企業が約1割を占めている.また,コア技術の創造にあたってもっとも重要な役割をはたした人の所属機関にもとづいてコア技術の出所を分類すると,約3分の2が大学・公的研究機関であり,残り約3分の1が親会社などの企業となる.さらに,大学・公的研究機関をコア技術の出所とするバイオベンチャーの場合,創業者の約4割が大学・公的研究機関を前職とする.こうしたことから,バイオベンチャーの誕生において科学的源泉が大きな役割をはたしているといえる.
(2) 大学・公的研究機関をコア技術の出所とするバイオベンチャーの場合,企業への技術移転を効果的に進めるにあたって大学・公的研究機関が重要な役割をはたしている.このうち技術指導(ノウハウの移転)を利用している企業は全体の8割を超えており,そのほとんどが技術指導を有効 (「有効であった」あるいは「非常に有効であった」)と回答している.コア技術開発者との共同研究開発を利用している企業は全体の7割を超えており,また,全体の約6割の企業がコア技術開発者との共同研究開発を有効(「有効であった」あるいは「非常に有効であった」)と回答している.一方,親会社・親会社以外をコア技術の出所とするバイオベンチャーの場合,大学・公的研究機関をコア技術の出所とするバイオベンチャーと比較して,技術指導や共同研究開発を利用しなかった企業の占める割合は相対的に高い.こうしたコア技術の出所による技術移転の有効性の違いは,大学・公的研究機関からのシーズは先端的であり,技術移転において大学・公的研究機関の研究者からのノウハウの移転との組み合わせが重要であることを示唆している.さらに,大学・公的研究機関をコア技術の出所とするバイオベンチャーの場合,コア技術開発者による経営参画や経営助言を利用している企業の割合および有効と回答している企業の割合は相対的に高い.
(3) 大学・公的研究機関をコア技術の出所とするバイオベンチャーの場合,親会社・親会社以外をコア技術の出所とするバイオベンチャーと比較して,設立時の資本金規模が小さく,また,創業者からの出資比率(設立時)の平均が約7割と高い.あわせて特許を取得する企業の割合が高い一方で,研究開発費の不足に直面する企業の割合は高い.こうしたことから,大学・公的研究機関をコア技術の出所とするバイオベンチャーは,提携(アライアンス)の拡大やベンチャーキャピタルなど資本市場との結びつきがより重要になりやすいと示唆される.
また,提携(アライアンス)・ライセンスおよび代表者の交代について,2011年度調査では,過去の調査と整合的な結果を得ており,こうした結果が頑健的であることを確認した.そこで得られた知見の概要は以下のとおりである.
(4) 提携・ライセンスについて,全体の約5割の企業が公的機関・大学との共同研究開発を行っており,約4割の企業が国内企業との共同研究開発を行っている.また,全体の4分の1の企業が国内企業からの受託研究を行っている.さらに,国内企業へのライセンスアウトを行った企業は全体の2割以上を占めている.加えて,提携・ライセンスの実績をもたない企業のいくつかは,提携・ライセンスを行う意志を有している.
(5) 提携・ライセンスのパートナー獲得にあたって有効だった方法として,ライセンスアウト,共同研究開発,受託研究のいずれの形態についても全体の約7割の企業が「自社による提携先の個別開拓」をあげており,その割合はもっとも高い.また,「自社技術に関する学会報告」は,ライセンスアウトについて約3割,共同研究開発について3分の1,受託研究について約3割の企業が有効と回答しており,科学的源泉となる学術研究機関が提携・ライセンスの実施にあたって一定の役割をはたすことを示唆している.さらに,共同研究開発と受託研究について,全体の1割程度の企業が「バイオジャパン等における公開展示」と「自社特許の公開公報を通じた情報の公開」を有効と回答している.新しい技術との融合や新しい用途の発見が,先端技術をイノベーションに結びつけていくうえで重要であり,そのために様々な提携機会の追求が重要なことを示唆している.
(6) 設立時のコア技術の変更がみられる企業は全体の4分の1を占める一方,創業者(設立時の代表者)が交代(変更)している企業は全体の約4割を占めており,代表者の交代の頻度はコア技術の変更よりも多い.創業者とその後に企業を継承した代表者(継承代表者)の年齢区分,学歴,前職の組織と職種といった個人属性を比較すると大きな差異はみられないが,基礎的な技術を基盤として事業化への具体的なシーズを探索する段階と,技術的な発展の可能性が確定したシーズを事業化する段階で,必要とする代表者の経験やスキルが異なる可能性はある.それぞれの経営課題にふさわしい代表者に交代することはバイオベンチャーの成長にとって必要であり,そのために専門的な経営者を育成していくことが重要といえる.
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