要旨
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地域に存在する未利用資源の有効活用は、地域イノベーション創出における大きな一つの手段である。しかし、未利用資源が長期に渡って未利用のままとなっていることには当然何らかの要因があるのも事実である。鹿児島県においても同様のことが当てはまる。鹿児島県はその大部分をシラス台地と呼ばれる火山噴出物に覆われている。シラスは固結性が弱く、透水性が高いために農業生産性が低い。梅雨時には浸食と崩壊を受けやすいために、シラスはしばしば大規模な土砂災害を引き起こしてきた。またシラス台地は米作りにも向かず、鹿児島県に住む人々はシラス台地との共生に苦労しながら、智恵を絞ってきた。 このように歴史的には鹿児島県に住む人々をしばしば苦しめてきたシラスを工業的に利用しようという取り組みは 100 年以上の長きに渡って続けられてきた。シラスの工業資源利用を実現することができれば、県の土地の大部分を覆うシラスが宝の山に変わることになる。しかし、事はそう簡単ではなく、多くの研究者や地元企業によって試行錯誤が繰り返されてきたものの、シラスの工業資源利用化は実用化されることなく長年の月日が流れてきた。こうした困難な状況であったにも関わらず、鹿児島に眠る未利用資源の有効活用という目標を地元の人々は決して失うことはなかった。そして、近年鹿児島県工業技術センターの袖山氏を中心として、シラスの工業資源利用に光が差しつつある。 鹿児島県におけるシラスの工業資源利用に向けた取り組みは、地域イノベーションの在り方の一つの形を示唆している。本稿では、鹿児島県におけるシラスの工業資源利用に向けた取り組みの試行錯誤の歴史を追いつつ、近年のシラスの工業資源利用に向けた発展のメカニズムについて明らかにしていく。本事例を通じて、地域イノベーションの創出には、核となる研究拠点と推進役となる人材が必要であることがわかる。また、地域イノベーションの背景には、ビジネスに課題を抱える企業が地域イノベーションに希望を見出し、推進者を支援する構図があることも本事例から得られる示唆と言える。
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